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発酵・醸造の伝統的“匠の技”を化学分析で支援 ~熊本県産業技術センター~(1/3)

2016年11月24日

前回に続き、熊本県内の企業を研究や分析などの技術支援で支える熊本県産業技術センターを訪問。食品加工技術室で、分析化学や生物有機化学などの分野を担当する研究主任の佐藤崇雄様に、伝統的な発酵食品の製造技術や、医薬品原材料の品質管理に活用される化学分析について、お話を伺いました。

付加価値の高い食品を
生み出すための技術支援

熊本県産業技術センター
食品加工技術室
研究主任 佐藤崇雄様

熊本県産業技術センターは、精密機械、電気電子、情報、化学材料、食品・バイオ、農産物加工などのさまざまな産業分野において研究開発、依頼試験、技術支援などを行って、県内産業の振興を図ることを目的にして熊本県が設置した技術支援機関です。

前回に続き、この熊本県産業技術センターの食品加工技術室で、分析化学や生物有機化学などに関する研究や依頼分析、技術支援を担当している研究主任の佐藤崇雄様にお話を伺いました。

佐藤様が現在担当しているのは、発酵食品、医薬品原料、化粧品用素材などの成分分析や品質管理技術の構築です。

「熊本県には『くまもと県南フードバレー構想』というコンセプトがあり(前回記事参照)、県南部の農林水産物に付加価値を付け、県外への販売を促進していこうという活動を行っています。医薬品原料や化粧品用の素材などは、同じ農作物でも生産管理や品質管理を高い基準で実施することにより付加価値が高まり、高く販売することが可能です。また、県内には40社ほどの醤油や味噌のメーカーがありますが、こうした伝統的発酵食品の品質を高める研究も行っています。これらの研究は、大学の農学部や薬学部にも協力を得て、産官学一体となって進めていますが、私の仕事は、研究対象物にどんな成分がどれだけ含まれていて、どんな作用をするか、どんな効果があるかを調べることです」

具体的にどんなことをやるのかを我々にもわかりやすい味噌や醤油を例にご説明いただいた。

「伝統的な発酵食品はこれまで、経験と勘による“匠の技”で作られてきました。この経験と勘の部分を科学的根拠に基づいて制御することができないかというのが私たちのチャレンジです。もっとも“匠の技”は、非常にすばらしくて、我々が一朝一夕に追いつけるものではありません。しかし、さまざまな分析の結果、いろいろなことがわかってきました。たとえば、年に1回行われる県内の醤油の品評会に集まったものを分析した結果、ある傾向が見えてきました」

「熊本県醤油品評会では色、香り、味など、さまざまな視点から審査員が1点1点時間をかけて官能審査し評点をつけます。これらの醤油の香気成分を質量分析し多変量解析によりクラスター分けしてみると、高い評価の醤油群(A群)とそうではないもの(B群)とでクラスター分けされていました。A群は各種発酵香を主成分にもち不快臭といわれるアルデヒドや高級脂肪酸類の少ない物、B群はA群に比べ各種発酵香が少なく高級脂肪酸類の多い物がクラスター分けされていました。当然、それ以外の違いもたくさんあるのですが。各種発酵香や高級脂肪酸類を生み出すのは微生物ですから、このように化学分析と官能審査の関係が明らかになれば、評価の高い製品をつくるためには、どのような微生物設計を行って、それをどのタイミングで添加すればよいかが、おのずと見えてくると思います。もちろん、雑菌を増やさないなどの衛生管理は欠かせませんが。」

「品評会で評価をする匠は、匂いをかいだだけで、その醤油の作り方がわかり、香りの悪い製品はどの工程でどんな作業をさぼったかもわかるんです。それは見事なもので、この匠の技には驚かされます。我々の分析は匠の技を超えようということではありません。含有成分を調べることによって、醤油の造りと品質の関係を明確にすることができます。それによって、どのような作業をどのタイミングで行えば、品質がどう変化するのかということが明確になります。そして、これらの分析結果を品質管理に活かしていくことができるようになると思います」