2016年4月25日
市販の食品のパッケージに表示されている栄養成分表示や消費期限や賞味期限の表示。こうした食品の成分分析や安全性の試験測定を行い、依頼主にデータを提供している日本最大の機関が一般財団法人日本食品分析センター。今回は、大阪府にある同センター 彩都研究所 衛生化学部無機分析課課長(※)の吉村健一様にお話を聞きました。
※役職は取材当時のものです。
人体に有害な重金属を検出する「無機分析」
有害金属の分析を専門的に担当する無機分析課では、ヒ素、鉛、カドミウム、水銀などの人体に害を及ぼす重金属の分析を行っています。
衛生化学部無機分析課課長 吉村 健一さん(※役職は取材当時のものです) 「たとえば、毒性があると知られるヒ素は、多くの食品の中に含まれています。含有量が少なければ大きな問題にはなりませんが、日本人の主食である米にもヒ素は含まれ、その摂取量も多いことから人体への影響があるのではないかと推測されています。農林水産省も毎年全国の米を分析しており、ここ 4 年は当センターも実際に分析を担当しています」
「栽培方法によってヒ素の含有量を減らす工夫や、ヒ素を吸収しにくい品種改良を行うなど、将来に向けた取り組みのためにデータを役立てていくことが大切です。そのためには、信頼できる正確なデータを広範に集め、蓄積していくことが必要なのです。また今後、TPP(環太平洋経済協力協定)が施行されると、海外からも今まで以上に米や農産物が入ってきますが、そうした食材の安全性を迅速に確認していくことも、国民の健康を守るために重要になってくると思います」
無機分析課はまた、放射性物質の分析も担当しています。東日本大震災以降、農産物や海産物の海外への輸出について、放射性物質の分析データを要求する国もあります。 TPP により、今後、海外への農産物の輸出拡大を目指す日本としては、放射性物質に限らず輸出相手国の要求に応じた安全性を証明する分析データが必要となってきます。今後、無機分析の重要性が増していくことは間違いないでしょう。
データ納品までの分析の流れと
要求されるスピードと正確性
無機分析課での分析試験は、次のような流れで行われています。
- 顧客からの依頼
- 分析内容についての打ち合わせ
- 試料の提供
- 担当部署への振り分け
- 試料の前処理(分析できる形態にする──主に水溶液化する)
- 分析試験
- データの確認
- データ提出
このサイクルのうち、3 から 8 までの工程を約 10 日間で行うのが通常の納期で、試験室で分析にかかる時間は約 7 日間が標準的です。
ところが吉村さんによると、最近増えているのが通常の半分、約 5 日間で分析データを提出する「至急」の依頼だそうです。この場合、試験室で使える時間は約 4 日間、試料の分析には通常約 2 ~ 3 日間かかるため、前処理から含めると1サイクルしか回すことができず、失敗が許されません。このため、通常のサイクルでは可能なさまざまな分析方法の検討や、分析のやり直しが、至急の依頼では許されないことになります。
「至急依頼の場合は、1 サイクル分の時間しかないため、試行錯誤が許されません。このため、最初から 2 ~ 3通りの分析方法を設定し、平行して作業を進めることが必要になります」
この際に要求されるのが、分析機器の測定スピードとデータの正確性です。吉村さんはこの点でアジレント・テクノロジーのICP-OES(誘導結合プラズマ発光分光分析装置)「Agilent 5100 ICP-OES」は重宝していると言います。
「『Agilent 5100 ICP-OES』は、最近依頼が増加している清涼飲料水の測定などに使用しています。また従来の分析では感度を確保するために試料採取量を多くしたり、複数回測定したりする必要がありましたが、Agilent 5100 ICP-OESは感度・再現性が高いため、試料採取量を減らすことができ、かつ測定回数を減らすことができるので、大変助かっています」
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