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ビールの香り分析で「香りの設計図」を作る ~アサヒグループ研究開発センター(アサヒグループホールディングス株式会社/アサヒビール株式会社)~(3/3)

2016年6月30日

キレのあるビールとして、大ヒットしたアサヒ・スーパードライ。2015年もビール系飲料の国内売上げNo.1を獲得し、6年連続で首位をキープしています。スーパードライを初め、ビール関連商品の開発に欠かせないのが“香り”の分析。人間の感覚だけではなく、「分析」という科学の力で効率化と安全性の向上を図る取り組みを取材するため、茨城県守谷市にあるアサヒグループ研究開発センターを訪ねました。

 

分析機器の進歩で
香気成分の解析が格段に楽に
岸本さんの所属する酒類技術研究所を初めとする研究開発センターでは、アジレント・テクノロジーのGC/MSシステムを約50台以上導入しています。実験室を見せていただくと、往年の名機から最新モデルの 7000C トリプル四重極 GC/MSまで、GC/MSがずらりと並ぶ様は壮観です。
高マトリクスのため分析が難しいというビールですが、分析機器の性能向上により、比較的容易に分析できるようになってきたと岸本さんは語ります。

ゲステルの前処理と組み合わせたAgilent 5977A GC/MSシステム

「さまざまな成分が混在するビールの中から香気成分だけを取り出す前処理が香気分析の難しいところだったのですが、分析機器の分解能が非常に高くなったので、前処理も以前に比べると楽になりました。

ビールの香気成分は、雑多な成分が多数含まれるので、シングル四重極型GC/MSだけでなく、トリプル四重極型GC/MS(GC/MS/MS)もよく使用します。分解能が非常に高いため、ピークが読みやすくなりました。以前なら1つの山だったところがいくつもの香気成分に分かれて現れてくるようになりました。ソフトウェアも使いやすく、取り込みスキャンのスピードにも満足しています。

 

 

 

Twisterに試料をセットすれば、連続した分析が可能に

特に、ゲステル社のオートサンプラーとアジレントのGC/MSの組み合わせでは、試料から目的成分を抽出してくれるTwisterを活用することで、自動で連続した分析が可能なので、人手をかけずに分析作業を進めることができます」

 

 

 

目的の成分だけを特定してくれることやその精度には満足していると言います。

ガスの流れについて説明してくださる岸本さん

「分析機器の進歩には非常に感謝していますが、一方で有機化学の知識が必要なくなるので、スタッフの技術力が保たれるのか、心配しているほどです」
香気分析の効果は確実に現れています。
「おかげで、どのような品種のホップを使い、それぞれの品種をどのタイミングで添加し、どのような酵母を使えば、狙った香り(設計した分析値)を付与できるのかを検討することが可能になりました」

ビールの香りを分析し、その数値を元に、新しいビール開発のスピードアップと効率化を図ることができているといいます。

 

競争の激しいビール業界では新製品開発が熾烈で、次々に新製品が登場します

「日本のビール業界は競争が激しく、夏限定、秋限定など季節ごとに限定商品が発売されます。そうしたときに活躍するのが『香りの設計図』です。マーケティング部からの要望を聞き、それにあわせて、新しいビールの香りを考え、提案し、そこから新製品が生まれます。そういう作業に分析機器の機能アップが非常に役立っています」

 

 

 

 

ビールの香り分析は、ノンアルコールビールにも活かされています

さらにビールだけではなく、第三のビールやノンアルコールビールなど、ビール関連商品の開発にも香りの分析は有効です。
健康意識の高まりから、プリン体の含まれない発泡酒や、ノンアルコールビールの需要が増えており、こうした商品にもビールの香り分析は役立っているようです。

食の安全や品質を守るために
分析機器を活用する
続いて、グループ食の安全研究所の坂井浩晃さんにお話を聞きました。グループ食の安全研究所は、アサヒグループ全体の食の安全を追求する研究所です。アサヒグループは酒類事業の他、清涼飲料水を扱う飲料事業、菓子や食品を扱う食品事業、そして海外に展開している国際事業があり、多数の企業から成り立っています。これらすべてのグループ企業の「食の安全」を守るため、法規制、潜在リスク、想定外のリスクなどさまざまなリスクに対応できるように、最先端の分析手法を開発し、その技術をグループ各社に提供しています。

異臭の解析にも活躍したAgilent 7200B シリーズ GC/Q-TOF

坂井さん自身は、潜在的なリスクに対応するための技術開発を行っており、特に揮発性成分(主に香り)の網羅的分析の手法を研究しているそうです。普段は主にアジレントのGC/MSを使用していますが、最近Agilent 7200B Q-TOF GC/MSを活用し、長期にわたる懸案事項で成果を上げることができたと言います。

「ビールの中に嫌な香りが混じることがあり、40年以上もの長い間その原因が特定されていませんでした。同じ原料、同じ条件で製造していても、その現象が発生する時と発生しない時があるのです。この異臭成分が何かということはわかったのですが、なぜそれができるのかがわかりませんでした。

 

 

 

グループ食の安全研究所の坂井さん。後方にAgilent 7200B シリーズ GC/Q-TOFが見えます。

この異臭成分の前駆体(その成分が生成する前の段階の物質)が見つかったという連絡があったので、導入したAgilent 7200B GC/Q-TOFを使って解析を行いました。

Q-TOF GC/MSでは、GC/MSライブラリに登録されていない未知の物質を解析し、構造を推定することができるという機能があります。これを使って解析したところ、160種以上の構造の候補の中から1つの構造に絞り込むことができました。そこで、同じ成分を合成し確認したところ、完全に一致したため、この異臭の原因となった成分が特定できたという事例がありました」

 

Q-TOF GC/MSを使った感想として坂井さんは次のように話してくれました。

 

「従来のGC/MSでは、ライブラリにない物質では、そこでお手上げになっていたのですが、Q-TOF GC/MSなら、その先まで解析できるので大変重宝しています。構造推定ソフトウェアも使い勝手がよく、未知成分解析のスピードが飛躍的に向上したと思います」

 

食の安全に加え、おいしさを追求するアサヒビールにとって、匂いや香りは重要な要素です。その解析に、アジレント・テクノロジーのGC/MSが活躍しています。