2016年6月30日
キレのあるビールとして、大ヒットしたアサヒ・スーパードライ。2015年もビール系飲料の国内売上げNo.1を獲得し、6年連続で首位をキープしています。スーパードライを初め、ビール関連商品の開発に欠かせないのが“香り”の分析。人間の感覚だけではなく、「分析」という科学の力で効率化と安全性の向上を図る取り組みを取材するため、茨城県守谷市にあるアサヒグループ研究開発センターを訪ねました。
ビールの分析で難しいのは
微量の香気成分を取り出して分析すること
ビールの香りの中でも、岸本さんが研究しているのはビールの香りを特徴づけているホップです。
「ビールは、主原料として麦芽、ホップ、酵母が使われるのですが、ホップはビールに苦みと香りを与える役割があり、しかも使用量は麦芽の100分の1以下でよいため、ホップの種類を変えることで比較的容易にビールの味や香りに変化を与えることができます」
ちなみに、ホップには、次のような働きがあります。
- 爽快な苦味
- 特徴的な香り
- ビールを清澄化
- 泡立ちをよくする
- 抗菌作用
ホップには品種、産地などにより100以上の種類があり、それを使い分けることでさまざまな香りを持つ商品を開発していくことができます。
「品種の異なるホップを加えることで、ビールに特徴的な香りが付与されることは経験的には認識されていました。そこで、香りに寄与する成分を特定し定量化できれば、事前にビールに付与される香りをコントロールでき、ビールの商品開発を大幅に効率化することができます」
ビールの香りの寄与成分を検出する定番の方法は「匂い嗅ぎGC(ガスクロマトグラフ)」と呼ばれるもので、香りを「グリーン」「柑橘」「フローラル」「マスカット様」「スパイシー」の5つに分け、それぞれ4段階で評価し、香気成分として何が含まれていたかという分析と相関させるという方法。人間の鼻による官能検査と分析数値を地道に積み重ねるという分析です。
ビールの香り分析の前処理の様子
「ビールの香りを分析すると、1000以上もの香気成分があります。しかも、夾雑物(混在する余計なもの)を多く含む『高マトリクス』のため、この中から微量の香気成分だけを抽出しなければなりません。この点がビールの香気解析における大きな課題となっています。しかも、分析が困難なビールを解析するのではなく、ホップを分析すればいいのではとよく言われますが、原料のホップの匂いと、発酵したあとのビールに残存するホップ香・ホップ由来の特徴とはまったく異なるのです」
発酵は微生物の働きで、有機物を分解・変化する現象のため、同じ原料でも酵母が違えば違う結果になり、環境が少し違うだけでまったく異なる結果になることもあります。しかも、この1000以上の香気成分が相乗的に関係してくるため、実際にはビールを作ってみないと、どのような香りになるかはわからないのです。
この非常に困難で手間のかかる分析に役立っているのがアジレント・テクノロジーのGC/MS(ガスクロマトグラフ質量分析)システムです。
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