2023年2月13日
農業用乳化剤の会社として1953年に誕生した日本乳化剤株式会社は、今年で70年を迎えます。コア技術である、酸化エチレン・酸化プロピレンの付加重合技術や蒸留技術などを生かし、同社の主力商品は、界面活性剤、グリコールエーテル、アミンなどに広がっています。これらの製品は重要な社会問題の解決にもつながる可能性があります。同社 技術研究本部 技術研究所 島村 様、樋浦 様、福嶋 様、三澤 様、生産本部 品質保証部 川崎品質管理課 西原 様に、日本乳化剤の貢献やそれを支える分析技術についてうかがいました。
日本乳化剤株式会社 技術研究本部
デジタル、生活、環境分野に欠かせない化学品
界面活性剤には同社の社名にもなっている「乳化」の機能があります。乳化とは混ざらない物質を均一に混ぜ合わせる機能のことです。農薬の成分が農作物に均一に行きわたるようにする目的で使われる乳化剤を皮切りに、界面活性剤の技術を発展させてきた同社は、現在では300種類もの界面活性剤をラインアップしています。同社の界面活性剤は、農薬製剤用だけでなく、塗料、樹脂の助剤、洗剤の主原料など幅広い用途に使われています。
グリコールエーテルは、主に塗料、インク、洗剤、電子材料の溶剤に使用されています。グリコールエーテルの中でもジアルキルグリコールエーテルは樹脂を溶解させるだけでなく金属を分散させるので、電子材料の溶剤、医薬品の合成に使用されています。また、芳香族系、脂肪族系、エステル系のグリコールエーテルは、主にアクリル、ポリエステルなど樹脂原料に使用されています。同社は、この製品群について、世界でも類をみないほど多くの品種を生産しています。さらに独自の精製技術により、低臭気・低金属のグリコールエーテルを生産しています。
アミン製品群の中でアミノアルコールおよびアルキルモルホリンは、国内では同社だけが生産しています。アミノアルコールは、大気、水質などを改善する環境資材の基礎原料として使用されており、アルキルモルホリンは、ウレタン及び医薬品の合成に使用されています。
私たちの日常生活で使うものに日本乳化剤の社名やロゴを目にすることはありませんが、実は私たちの多くはその恩恵にあずかっているかもしれません。たとえば、半導体や電子材料、洗濯洗剤や柔軟剤、浴室洗剤、ペンキや自動車の塗料、インクジェットプリンタ用のインクなど、日常生活で使われる様々な製品に、日本乳化剤の技術が使われています。
そして、同社の製品の品質を担保したり、新たな機能を持つ新製品を開発したりするのに欠かせないのが分析技術です。
高品質の化学品をお客様に
同社の品質保証部 川崎品質管理課では、製品の試験、分析法開発、新たな分析機器の選定などを行っています。化学品の製造においては、正しく合成され、適切な製品が製造できているかを確認するための試験が必要不可欠です。たとえば、グリコールエーテルやアミンの製造では GC (ガスクロマトグラフ)などを使って純度を測定しています。また、原料や製品の不純物管理を行うことで、万が一、製品に不純物の混入が起こったとしても、不良品を出荷することがないような管理体制となっています。
また、日本乳化剤の強みとして、低金属管理された高純度のグリコールエーテルやアミンを提供できることが挙げられます。グリコールエーテルは半導体や液晶などの製造プロセスにおいて、フォトレジスト、剥離剤、洗浄剤、エッチング剤などの溶剤として広く利用されています。同社では、金属含有量をppt(1兆分の1)レベルに管理した高品質なグリコールエーテルを豊富に取り揃えており、構造や沸点を広範囲で選択可能です。管理を求められる金属元素はお客様により異なりますが、通常、二十数種類の元素を管理するのが一般的です。また、原料調達、合成、蒸留を一貫して行いトレーサビリティの体制を整えることで電子材料業界のお客様からの厳しい品質管理要求に応えています。
同社川崎工場と鹿島工場では、ICP-MS (誘導結合プラズマ質量分析計)を使い、低金属管理製品の試験が行われています。かつては原子吸光光度計で単元素ごとに分析していましたが、20年ほど前に初めてICP-MSを導入しました。これにより、多元素一斉分析が可能になるとともに、高感度分析も実現できるようになりました。
日本乳化剤株式会社 川崎工場(左)と鹿島工場(右)。 界面活性剤、グリコールエーテル、アミンを生産。
日本乳化剤のコア技術と製品
微量分析・高感度分析が技術研究に貢献
同社の技術研究本部 技術研究所は、既存製品の改良、生産工程改良、サンプル試作、新規製品群の創出など、技術面で重要な役割を担っています。同社の強みは「顧客密着」。お客様からの要望についてはできる限り応えようという姿勢で取り組んでいます。この役割のうち、既存製品の改良、生産工程改良、サンプル試作を担うのが技術開発部です。
技術開発部では、お客様の要望に基づいて試作した化合物同定や不純物分析などに、GC/MS(ガスクロマトグラフ質量分析装置)を活用しています。お客様の要望に基づいて試作品を合成した際、GC/MSのチャートを見せてほしいという要望を受けることもあります。GC/MSのデータは、お客様のニーズを満たす物質を合成したことを示すエビデンスにもなっているのです。感度の高いGC/MSは微量分析でも活躍しているといいます。また、既存製品の改良の例として、低金属管理品の研究開発があります。既存製品を低金属管理品として新製品化するのです。その検討過程においては、pptレベルで金属分析が可能なトリプル四重極 ICP-MS も活用しています。
新規開発部は、既存製品とは異なる新規製品群を創出することがミッションです。目的としている化学品が想定どおりに合成できているかを確認する同定目的で分析を行っており、開発のフェーズが進むとその化学品の評価のための分析も行います。新規開発部では、GCやICP-MSに加えて、高純度品を作る際の不純物分析、副生成物の確認用として、液体クロマトグラフ (LC) も使用しています。
アジレントの装置を幅広く使うユーザーだからこそ分かるメリットとは
日本乳化剤株式会社では、8860 GC、7890 GC、7820 GC、5975 シリーズGC/MSD、1260 Infinity II LC、1290 Infinity II LC、7700 ICP-MS、7900 ICP-MS、8900 トリプル四重極ICP-MSなど、アジレント・テクノロジー製の分析機器を幅広く導入しています。アジレントの分析機器を使うメリットの1つが、お客様と情報共有しやすいことだといいます。アジレントのICP-MSやGCのユーザーが多いことから、「ICP-MSではバッチファイルを受け渡すだけで、お客様と分析条件をすり合わせることができる」(福嶋様)、「アジレントのこのGCを使っていると言えば、お客様に話が通じる」(西原様)など、お客様とのやり取りが容易になります。お客様と「共通言語」で話せることのメリットは数値では表しにくいものの、顧客密着を掲げる同社にとっては実感できるメリットとなっています。
また、「LC、GC、ICP-MSを使っているが、どれも同じ操作感覚で使える」(樋浦様)と、ソフトウェアの使い勝手の良さを感じているといいます。福嶋様も「8900 トリプル四重極ICP-MSをメインで使っているが、ソフトウェアが簡単に使える。難しい操作が不要で、一度やってみれば使えるようになる」と話しています。同社では、異なるモデルのアジレントのICP-MSを複数台使用していますが、ソフトウェアが共通なので、一度覚えればどの装置でも同じように使うことができるそうです。また、西原様はアジレントのGCのソフトウェアについて、15年ほど前までは「海外のソフトウェア」という印象で使いづらかったと感じていました。数年前に展示会やデモでアジレントのGCを見たところ、「直感的に使える」という印象を持つようになり、8860 GCなど、新しい技術を採用したアジレントのGCを導入するケースが増えているといいます。使い勝手の面でアジレントに期待することとして、樋浦様は「メンテナンスがもっと簡単になれば…」と話しています。
業務に直結する情報を入手しやすいこともメリットだといいます。「定期メンテナンスに来たアジレントのエンジニアに質問をすると、その場で答えてくれる」、「ICP-MSでうまく測れない元素について営業担当に相談に乗ってもらったら、すぐに実績のある分析条件を送ってくれ、問題が解決した」(いずれも福嶋様)と、相談しやすい環境が整っていることも、アジレントの分析機器を使い続ける理由になっているそうです。
20年ほど前、同社初のICP-MSとして、Agilent 7500s ICP-MSを導入したときのことを知る島村様は、当時を振り返り、「導入して10年ほどは、アプリケーション担当者に何度も来てもらったり、電話で問い合わせをしたりして、サポートしてもらった。東京にあるアジレントのラボを訪問して、デモを見たりすることができるのもよい。今では自分たちで使いこなせるようになっている」と語っています。
三澤様は、アジレント主催のセミナーで学んだ分析の基礎が今でも役立っているといいます。一方で西原様は「アジレントのICP-MSを使うのは簡単だが、干渉金属をどうやって除去するかなどのノウハウが必要。干渉除去の考え方などをメーカーからもっと教えてほしい」と、アジレントに期待しています。
西原様と、Agilent 8860 GC。グリコールエーテルの分析などに利用(右側の大きい写真の説明です)
福嶋様と、技術研究所で使用しているAgilent 8900トリプル四重極ICP-MS。低金属管理品の金属を測定(右側の大きい写真の説明です)
島村様(左)、三澤様(右)と、Agilent 5975シリーズ GC/MSD(フロント部は7890 GC)。加熱脱着装置とにおいかぎ装置も搭載しており、臭気成分の分析にも活躍しています。(右側の大きい写真の説明です)
樋浦様と、Agilent 1260 Infinity II Prime LC。不純物評価や副生成物の分析に利用(右側の大きい写真の説明です)
デジタル、生活、環境分野で、社会課題を解決
日本乳化剤では、将来を見据えた動きを進めています。昨今のデジタルトランスフォーメーション (DX) の流れを受けて、同社でも様々な分析装置を接続して、分析業務の省力化を進めようとしています。技術という観点では、コア技術である酸化エチレン・酸化プロピレンの付加重合技術や蒸留技術などをさらに高めて、デジタル、生活、環境という3つの重点領域で貢献していこうと、新たな技術の開発を進めています。
低金属管理されたグリコールエーテルは半導体・電子部品の発展を支えます。界面活性剤は洗浄剤の主成分であり、工場の洗浄工程を工夫すると省エネや時短につながることがあり、ひいては二酸化炭素 (CO2 ) の排出削減に貢献します。アミンは、CO2の吸収材としてCO2排出削減につながることが期待できます。世界規模で進むカーボンニュートラルの動きのなか、日本乳化剤の技術が大きなカギを握ることになるかもしれません。
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