2021年10月8日
株式会社MCエバテックは、活性炭の製造・販売や、半導体・FPD(フラットパネルディスプレイ)・太陽電池製造装置の精密洗浄などの事業を展開する企業です。三菱ケミカルホールディングスグループ最大の分析会社でもあります。2020年10月には、旧日本合成化学工業株式会社の子会社2社の分析事業を継承し、分析事業のさらなる拡大を図っています。同社が得意とするVOC(揮発性有機化合物)分析や、今後よりいっそうの強化を目指す材料分析などについて、兵庫県尼崎市にある同社 分析事業部 尼崎分析センター長 田中 浩史 (たなか・ひろふみ)氏と、尼崎分析センター 分析技術課 課長代理 弦巻 理絵 (つるまき・りえ) 氏にお話をおうかがいしていきます。ガスクロマトグラフ (GC)、ガスクロマトグラフ質量分析計 (GC/MS)、液体クロマトグラフ (LC)、誘導結合プラズマ質量分析計 (ICP-MS)など、アジレントの様々なソリューションを利用している同社ですが、田中氏と弦巻氏は、GCやGC/MSを使った分析のエキスパートです。
株式会社MCエバテック 分析事業部 尼崎分析センター
MCエバテックには、尼崎、つくば、加古川、四日市、大阪茨木、熊本の6つの分析センターがあります。田中氏と弦巻氏が所属する尼崎分析センターは、環境分析、一般分析、試作試験などをカバー。また、つくば分析センターでは環境試験やVOC試験、加古川分析センターでは石炭やコークスの工程試験(JIS規格試験)、四日市分析センターでは環境分析のほか、環境調査コンサルティングを請け負うなど、それぞれの強みを生かした分析を幅広く手掛けています。
さまざまな分析を得意とする同社の分析事業において、今後、力を入れていきたい分野として、田中氏が挙げたのが材料分析。「以前は、欧州の規制であるRoHS指令やREACH規則に沿った分析などの依頼もよくお受けしてきました。発生ガス分析も力を入れてやっています。最近、環境分析においては、PFOS(ペルフルオロオクタンスルホン酸)やPFOA(ペルフルオロオクタン酸)が話題にのぼります。欧州ですと材料中のPFOS、PFOAの分析ニーズがありますが、日本では活性炭に吸着するPFOSやPFOA分析のニーズがあります。水道水中のPFOS、PFOAの規制が強化されたこともあり、これらの分析ニーズも高まっています」と、田中氏は言います。また、カーボンニュートラルが強調される世の中の流れもあり、バイオマス燃料の評価にも注力しています。さらに、親会社の関西熱化学の事業を支える石炭コークス活性炭の物性や吸着性の評価も、尼崎分析センターの得意分野です。
弦巻氏は、「お客様と一緒になって、有機合成を行うこともあります。様々なサイズのオートクレーブを尼崎分析センターでは保有しており、少量のラボスケールだけではなく、キログラム単位で合成することが可能です。まとまった量を合成して試験を行いたいというお客様の研究を支援しています。」と話しています。さらには、「取り扱いが困難なガス、薬品類、燃料を用いた試験ができることも強み」だと言います。たとえば、取り扱いが困難なガスを用いた、加速劣化試験なども、尼崎分析センターで対応しています。
建築材料の分析規格策定に関与
多様な分析ニーズに応えるMCエバテックですが、自動車の内装材から発生する化学物質の分析依頼はまだまだ多いと感じるそうです。尼崎分析センターでも様々なニーズに応えられる設備を用意。たとえば、「ISO12219-3:Micro-scale chamber Method」に準じた内装材VOC測定については、Markes社やGERSTEL社の加熱脱着装置と、アジレントのGC/MSを組み合わせたシステムなどを使用して分析しています。田中氏は、2000年代半ばに建築材料からの化学物質放散試験などに関するJIS A 19〇〇シリーズの策定改定などにも精力的に関わってきました。規格で使用される加熱脱着GC/MS(TD-GC/MS)を用いた分析方法の精査等を実行してきました。TD-GC/MSについては、田中氏個人としても、MCエバテック全体としても、多彩なノウハウが蓄積されています。
高速分析で実績のあるIntuvo 9000 GCを異臭分析にも活用
「自動車に関して言えば、車室内についてVOCの評価もありますが、最近ではニオイを気にされるケースが増えています。尼崎分析センターでは、ニオイの分析に力を入れようとしています。」と弦巻氏は話しています。特に、悪臭の原因物質の一種であるアミン類を、アジレントのGC「Agilent Intuvo 9000 GC」を使って分析しようとしています。Intuvoは、小型なことにくわえて、ダイレクトヒーティングによるサイクルタイムの短縮、すばやく確実なカラム交換可能なフェラルフリー接続、カラムのトリミングが不要となるガードチップ技術などを特長とする画期的なGCです。
尼崎分析センターに設置されたAgilent Intuvo 9000 GC
尼崎分析センターのIntuvoは固相マイクロ抽出法 (SPME法) での分析用として導入されたものです。弦巻氏としては、これから本格的に活用をしていこうと考えているところですが、同社のつくば分析センターでは、すでにIntuvoを活用して成果をあげています。つくば分析センターでは、VOC分析における効率向上・分析時間短縮が急務でした。Intuvoの高速加熱・冷却という特長により、分析時間を短縮でき、同じ時間でより多くのサンプルを分析できるようになりました。尼崎分析センターでIntuvoを使用している弦巻氏も「カラムの冷却速度が速いのは重宝しています。」と言います。これに加えて、「オートサンプラが多機能なのも助かります。まずは液打ちを試し、その後で、ヘッドスペースサンプラを使いたいという場合も、装置の設定を変える必要がありません。『ちょっと試しに分析してみる』という使い方のときには便利です。」と話しています。一方、従来の一般的なGCとは構造が異なることもあり、慣れない点もあると言います。「分離を改善するために自分でプレカラムを取り付けるといった使い方よりは、決まった使い方で高速に分析するという用途に適しているのでは…」と感じているそうです。今後、Intuvoを活用したアミン分析について、カラムの選定などを含め、分析条件の決定を進めていきます。
このIntuvoに限らず、尼崎分析センター長の田中氏がアジレントのGCを使うのには訳があります。「私が現場で分析をしていた20年ほど前から、アジレントのGCには助けられてきました。注入口の圧力制御が優れているため、微量分析のために低スプリットで分析する場合でも、再現性良く測れます。」と話しています。現在分析業務にあたる弦巻氏も、「ハードウェア面で使い勝手が良いと感じます。自分たちで配管を追加して、加熱用の炉を追加したいという場合、まず思いつくのは、装置の構造上、柔軟性のあるアジレントの装置です。ソフトウェア面でもライブラリサーチが便利。不明なピークが出てきたときでも、そのピークが何なのか分かります。」と話しています。
アジレントのエンジニアやアプリケーション担当者
弦巻氏は、GC/MSのイオン源の洗浄など、メンテナンスも自身で実施しています。それでも、分からないことがあったり、故障したりした場合は、アジレントに問い合わせることもあります。「修理等の対応が早いのは助かります。電話をすれば、何とかしてくれるという安心感があります。写真付きのメールで、分かりやすく対処方法を教えてくれることもあります。部品に不具合があった際も、すぐに交換品を手配してくれました。」と話しています。
また、アジレントのアプリケーション担当者と相談することもあります。「いただいた助言を参考にして分析条件を決めることもあれば、『今後こうやってみよう』と、新たなアイデアにつながることもあります。いろいろなアプリケーションノートを送ってもらえるので、知見が広がります。」と弦巻氏は話しています。
尼崎分析センター長の田中氏は、自動車技術会に参画し車室内及び内装材VOC試験の国際規格策定に精力的に活動しています。田中氏は、「規格の中には分析に関することも多く存在しており、分析の重要性は高いと感じています。分析を精査する必要がありますので、アジレントのアプリケーション担当の方にも支援していただきながら、提案していきたいと考えています。」と話しています。
アジレントの担当者だけでなく、アジレント製品の販売店も含めたサービスにも満足していると言います。弦巻氏は「アジレントの販売店の方は、アジレントの装置のことをよく知っています。装置のトラブルがあった場合でも、その場で直してくださることもあります。」と言います。田中氏も同じように感じており、「すぐに直してもらえるので、私たちのストレスが非常に抑えられます。販売店の方の意識が高いのを感じます。」と話しています。
分析をするにあたって、心掛けていらっしゃることをおうかがいしました。
「本当にその値は正しいのか―――常に疑いながら分析をしています。お客様にデータを出す以上は、信頼のおける値をお出ししなければならない。自分がやったことが本当にこれでいいのか、正しいのか、この値でいいのかという点を常に確認し、疑いを持つようにしています。」と弦巻氏は話しています。尼崎分析センター長の田中氏もこの考え方に同意します。「私たちは分析をサービスとしてお客様に提供するサービス業ですから、この考え方を持っていないと、ビジネスとして成り立ちません。」と締めくくってくださいました。
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