2019年11月6日
ユネスコの世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業」には、8つの地域(23の資産)が登録されていますが、その地域の1つが三池炭鉱で有名な三池。福岡県大牟田市を中心とした地域です。明治時代に、政府から三池炭鉱の払い下げを受けたのが当時の三井組。大牟田市には現在も三井金属鉱業株式会社グループの複数の工場があり、機能性粉体、薄膜材料、セラミックス、酸化亜鉛などが生産されています。今回は、地元の小学生が描いたというかわいらしい煙突が目印の三井金属鉱業株式会社レアメタル工場内にある基礎評価研究所 三池分析技術センターにお邪魔し、野中 尚子様にお話をうかがいました。
三井金属鉱業株式会社
マテリアルの知恵を活かす
神岡鉱山(岐阜県飛騨市)から鉱石を採掘して亜鉛や鉛などを取り出す事業をルーツに、非鉄金属素材を中心とした多様な技術や経験を蓄積してきた三井金属鉱業グループ。「マテリアルの知恵を活かす」をスローガンに、機能材料事業、金属事業、自動車部品事業、その他関連事業を展開しています。たとえば、長年培った「製錬・電解」「溶液化学」といったコア技術を活かして、極薄の金属箔を大量に生産する技術を用い、精密回路の配線材料に用いられる極薄銅箔を生産。この銅箔はスマートフォンの小型化などに欠かせない材料で、世界シェアの約90%を占めています。他にも、二輪車・四輪車排ガス浄化用の触媒では60%、電子機器用の銅粉では35%、酸化セリウム系研摩剤では40%と、世界トップシェアを誇る製品を多く開発・製造してきています。
(※シェアはいずれも三井金属鉱業様調べ)
同社大牟田地区の工場を支援する三池分析技術センター
三井金属鉱業グループは、大牟田地区に、機能性粉体、薄膜材料、セラミックス、金属リサイクル等の工場があります。これらの工場で使用する原料、生産している中間品や製品の分析、さらには工場の環境分析を引き受け、製品開発と研究の両面から支えているのが三池分析技術センターです。音楽が流れる雰囲気の良いこのセンターでは、20人のセンター員が、年間約40万件もの分析に携わっています。同センターでは、粉体製品の面積や粒子の大きさや、超微量の不純物の測定、主成分の精密分析や形態分析など、分析に関するさまざまな専門性が集結。直近では、ケイ素の自動分析装置も開発しています。分析している製品の一例が、大牟田地区の工場で生産される酸化タンタルや酸化ニオブ、ITO(酸化インジウムスズ)ターゲット材。酸化タンタルはコンデンサなどの電子部品に、酸化ニオブは粘りを出したり耐熱性を向上したりする添加剤として、ITOターゲット材はスマートフォンのタッチパネルなどに使われるなど、私たちの生活にも大きく関わっています。「私たちの分析値が製品の品位の要となります。分析精度の向上は品質保証の向上に繋がり、製品価値を高めることになります。」と、野中様は、三池分析技術センターの重要性を強調。また、工場内の大気、製造工程から生じる排水、敷地内の土壌を定期的に分析し、働いている人たちの健康や環境面でのサステナビリティにも貢献しています。また、大牟田地区以外の三井金属グループ会社からの依頼分析も請け負っています。野中様は「自分が出した数値が、処理基準として扱われたりすることに責任を感じます。正しく分析をすることで、地域や人々の生活環境の維持、安全に貢献できたらと思っています。」とも語っています。
三井金属鉱業株式会社 三池分析技術センターの皆さん。写真撮影時には、メンバーがあっという間に集まり、チームワークの良さが伝わってきました。
Agilent 5110 ICP-OESを2台導入へ
「三池分析技術センターでは、無機分析として、主にppb(十億分の一)オーダーの場合には誘導結合プラズマ質量分析計 (ICP-MS)、ppm(百万分の一)オーダーの場合には誘導結合プラズマ発光分光分析装置 (ICP-OES) を利用しています。大牟田地区の工場で製造する酸化タンタルや酸化ニオブの分析、製錬所から依頼される原料の不純物分析では、主にICP-OESが利用されます。複数台利用しているICP-OESのうち、1台が老朽化してきたため、2018年秋から、その入れ替えを検討することとなりました。センター内で聞き取り調査を行い、機種の選定を行ったところ、Agilent 5110 ICP-OESと別の会社の装置の2機種が選考に残りました。各メーカーのラボや検討機種を保有する分析センターへ行き実際に使ってみて相当悩みました。性能面では別の会社の装置の方が優位に思われました。しかし経験年数を問わず誰でも使いやすい装置ということで、Agilent 5110の導入を決定しました。」と野中様は語ります。装置に不具合が出た場合のバックアップ体制や、大牟田地区の工場の増産計画への対応などを考慮し Agilent 5110の2台導入を上司に提案し実現しました。1台はフッ酸システムをオプションで追加し、タンタルやニオブの測定に対応した構成とし、もう1台はマルチモードサンプル導入システムのオプションを追加して、ヒ素やセレンなどの分析に最適な構成としました。
Agilent 5110 ICP-OES 2台を導入。1台は酸化タンタルや酸化ニオブの測定に適した構成、もう1台はヒ素やセレンなどの分析に最適な構成 (左)
エンジニアによる勉強会(右)
測定スピード、操作、エンジニアの対応
同センターでは、従来機種のAgilent 720 ICP-OESも使用していました。その使用者数が他の装置に比べて多かったこと、その測定スピードと操作性が評価されていたことが同じアジレントのICP-OES採用の理由の1つでした。また、野中様はアジレントのサービスにも信頼を置いていたと言います。「何かあったときのエンジニアの対応が速く、すぐに折り返しの電話がかかってきます。また、装置のことだけではなく、前処理に関する情報も提供してくれるので、『何かあったときには相談してみよう』という気持ちになります。また、あるとき、ICP-OESの消耗品でトラブルが生じた際に、保守点検に来ていた他製品担当のエンジニアに相談したところ、社内ですぐに情報共有され、解決に動いてくれ、小さなことにも対応していただく姿勢に感動しました。」と野中様は話しています。
既存モデルのAgilent 720は、購入から7年が過ぎた現在もフル稼働です。しかも高マトリクスサンプルの分析に使われてきました。そのため、突然不具合が出たら業務に悪影響が生じるという潜在的な不安もありましたが、Agilent 5110 ICP-OES 2台が稼働した現在、バックアップ体制も整いその心配も少なくなりました。
三井金属鉱業株式会社 三池分析技術センター 野中 尚子様
安心して日常使いできるICP-OES
新しいAgilent 5110 ICP-OESは、2019年5月と7月から稼働しています。使用しはじめて数か月が経ちますが、野中様はこの装置を「かゆいところに手が届く」「安心して日常使いできる」と評しています。「妨害元素の波長をすぐに確認できるなど、『こうあってほしい』と思うところが、まさにそのようになっています。」と言います。また、「タンタル、ニオブ、希土類元素は干渉が多く、シーケンシャル型のICP-OESでも分析に苦労していました。Agilent 5110はマルチ型のICP-OESでありながら、精度よく測れます。高マトリックス試料においても、縦型トーチでのアキシャル測光により、感度よく安定して測定できます。」と続けます。アジレント独自のOneNebシリーズ2 ネブライザの噴霧の安定性と霧の細かさやメンテナンスフリーで使用できる点にも満足されており、他のICP-OESにも付け替えて使用していると言います。今回は、性能よりも、日常使いでの安心を優先して、Agilent 5110 ICP-OESの採用を決定したと言いますが、結果としては、分析性能にも満足しているそうです。
分析にかける思い
最後に、分析に携わるにあたって心掛けていることを野中様にうかがいました。
三池分析技術センターが取り扱う商品は「数字」。「私たちの出した数字が商品であり、責任を持つべきものだと思っています。分析の過程において、ロスや汚染なく、より正しい分析値を出せるかは、三池分析技術センターのメンバーにかかっています。そのため、化学的な根拠はもちろんどの装置で測定するか、どういう条件や検量線で測定すれば最適かなど、細心の注意を払っています。そして装置が良い状態で動いているか、正しく評価しているかは最も大事なことです。そのため、毎日のメンテナンスと管理標準のチェックは欠かさず行ない、安定した結果が得られるよう心掛けています。」と野中様は語ります。
前処理や装置のメンテナンスに留まらず、野中様は背景も知ったうえで分析に取り組もうとしています。「色々な現場を回るようにしています。何も知らずに分析するのと、作られる工程を知って分析するのでは意味が違うと感じています。現場では新しい製品を開発・製造しようと努力がされています。当センターでもそれに対応していくことが大事だと思います。」
現在は、技術力を高めるためにも、今までに経験したことのない試料や経験したことのない濃度の試料の分析、講習会への参加など、新しいことに次々とチャレンジしているそうです。
三井金属鉱業 基礎評価研究所 三池分析技術センター様には、アジレント製品として、ICP-OESのほか、ICP-MSやトリプル四重極ICP-MSもご利用いただいております。これらの分析ソリューションやエンジニアのサポートがお客様の新たな分析課題の解決に繋がっていくよう、アジレント・テクノロジーでは最善を尽くしています。
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