2019年10月15日
日本列島のほぼ中央に位置する岐阜県大垣市。この街で水力発電事業に取り組んでいたイビデンの分析部門が独立して1973年に設立されたのが、今回ご紹介するイビデンエンジニアリング株式会社です。
現在では、環境技術、建設、メンテナンス、精密機械の4事業を展開している同社ですが、なかでも環境技術事業部のアナリティカルソリューショングループ(ASG)では、これまで培ってきた分析ノウハウや実績を活かし、環境測定や材料調査といった一般的な分析業務はもちろん、顧客の多様な要望に対応できる分析サービスを提供しています。
ASGの解析チームに持ち込まれるサンプルや要望はさまざま。同チームの小縣 早苗氏は「まったく同じものを測定することはほとんどありません。元素分析であれば何でも私たちの解析の対象となります」と言います。今回は、チームメンバーの谷口 綾菜氏、林 美希氏とともに、幅広い対象を扱う分析業務の難しさや、そこに掛ける思いなどについて聞きました。
左からイビデンエンジニアリング株式会社 環境技術事業部
アナリティカルソリューショングループ 解析チーム
小縣 早苗氏、谷口 綾菜氏、林 美希氏
入念なヒアリングで多様なニーズに対応
ASGの解析チームでは、問い合わせ対応から、前処理、分析、レポーティングまでをワン・ストップで対応しています。親会社であるイビデンのセラミック事業に関する分析のノウハウを持っているため、特に難溶性の物質測定に強みを持っており、土壌や岩石など、幅広いサンプルに対応できることが特長です。
海底堆積物や岩石などに対しては、「測定できるすべての元素について知りたい」といったような問い合わせもあると言います。しかし、そうした要望に完全に応えることは困難です。そのため小縣氏は、念入りなヒアリングの実施を心がけているそうです。
「測定サンプルはどこから採集したものなのか、有機物なのか無機物なのか、なぜこのサンプルを測定したいのか……、可能な限り事前にしっかりとヒアリングをさせていただき、そこで当社としてできることを明確にお伝えするようにしています。まったく情報がないときは、走査型電子顕微鏡や蛍光X線分析装置を用いてサンプルの組成を把握してから詳細な分析を開始します」(小縣氏)
イビデンエンジニアリング株式会社 環境技術事業部
アナリティカルソリューショングループ 解析チーム
小縣 早苗氏
たとえば岩石の解析を担当したときには、サンプル数が多く、測定しなければならない元素も多岐にわたっており非常に苦労したという小縣氏ですが、「お客様に『また次回もお願いします』と言っていただけたときには、がんばった甲斐があったと思いましたね。お客様と一緒に取り組んだという感覚です」と、苦労が大きいぶんだけやりがいもあると語ります。
ASG解析チームで長年活躍しているAgilent 7700シリーズ
さまざまな装置を駆使して顧客の多様なニーズに対応しているASGの解析チーム。特に夾雑物の多いサンプルの解析には、アジレントのICP-MS(Agilent 7700)が長年活躍しています。
Agilent 7700 ICP-MS
同装置の導入を担当した小縣氏によると、測定の難しいサンプルを複数のICP-MSメーカーに送付して、その分析結果を検討した結果、Agilent 7700を選んだと言います。そして、その導入効果について「海水や岩石、めっき液など夾雑物が多く含まれるサンプルを測定するのに、以前使用していたICP-MSでは安定性の面で苦労していました。Agilent 7700を導入した一番のメリットは、そうしたサンプルでも安定した測定ができるようになったほか、定量下限値が小さくなったことで、お客様のより多様なご要望に応えられるようになったことだと思います」と語ります。
また小縣氏は、装置だけでなく、アジレントの営業やサポート体制についても高く評価しています。「営業の方はとても正直で、とにかく売ろうとするのではなく、アジレントの装置でできることとできないことをはっきり教えてくださるので、信用して付き合うことができるんです。また、サポートの方に問い合わせるときも、論理立てて的確に説明してくださるので、非常にわかりやすいです。修理の際にも、ただ直すだけではなく、使い方のアドバイスまでしていただけます」(小縣氏)
Agilent 7700の導入後に入社した谷口氏と林氏も、アジレントに対しては好印象を抱いていると言います。
「大学の専門は遺伝子工学だったので、入社当初はわからないことだらけでした。しかし、アジレントの方はたとえ部品の名前がわからなくても親身になって相談に乗ってくださるので非常に助かっています。電話で問い合わせた際の対応も、他社に比べて非常にスピーディーです」(谷口氏)
イビデンエンジニアリング株式会社 環境技術事業部
アナリティカルソリューショングループ 解析チーム
谷口 綾菜氏
「私も大学の専門は生物系だったので、ICP-MSを使いはじめたのは入社してからです。当初は知識ゼロの状態で問い合わせをすることも多かったのですが、アジレントの方は装置の状況について丁寧に聞いてくださり、解決策を教えていだだけたことでとても安心しました」(林氏)
イビデンエンジニアリング株式会社 環境技術事業部
アナリティカルソリューショングループ 解析チーム
林 美希氏
「ただ数字を出すだけの仕事」にしないために
装置が高性能化してあまりに便利になりすぎてしまうことで、分析結果について深く考えないようになってしまうことに対しては危惧しているという小縣氏。装置が高性能になってきたことで誰でも何らかの数字を出すことはできるようになりましたが、どの結果が正しい結果なのかわからないといったような話を聞くこともあるようです。「経験を積んできたことで、最近では自分でも疑わしい結果に気づくことができるようになってきました。測定結果の疑わしさに気づけない限りは、ただ数字を出すだけの仕事になってしまいます」と、測定結果として出てきた数字の意味まで含めて分析することの重要性を語ります。
そこで小縣氏が大切にしているのが、ヒアリングです。「ヒアリングには、お客様の抱える問題について勉強してから臨みます。ヒアリングが不十分だとお客様の要望とは違う分析結果報告につながってしまうので、しっかりと対応するようにしています。私たちはお客様の"分析かかりつけ医"を目指しています。チーム全体で知恵を絞って、お客様の困っていることが解決できれば良いと思っています」(小縣氏)
さらに小縣氏は、文献や書籍で調べたり、以前に手掛けた分析方法をアレンジしたり、学会や勉強会に参加したりなど、自己研鑽にも励んでいます。多様なニーズに応えるためにも、信頼性の高い分析結果につなげるためにも、ヒアリングや日々の勉強はとても重要ということです。
最後に、3人に今後の展望について聞きました。
「最後にお客様に提供するものは、ただの1つの数字です。そこにどれだけの自信を持って根拠を語れるかということにはこだわっていきたいと思います。そのためには、やはり自分自身の技術や知識の向上を目指していきたいですね」(谷口氏)
「私はまだ経験が浅く、信頼できるチームメンバーに測定結果の判断を仰いでいる状況ですが、まずは自分で自信を持って結果を出せるように、そしてゆくゆくは結果の正しさの判断までできるように技術を高めていきたいです」(林氏)
「提案力を身につけることで、まずはここに相談してみようと思って連絡してもらえるような会社、個人を目指しています。またお客様に提出する報告書も、ただ数字だけを出すのではなく、困りごとに対する考察まで含めてコメントできるようになっていきたいと思っています。やはり最終的にはお客様に満足してもらえることが一番ですね」(小縣氏)
顧客の多様なニーズに応えて満足度を高めるため、分析力の向上を目指し、若手解析チームの挑戦は続きます。 |