2018年10月29日
粉じん、有機溶剤、有害金属や騒音——作業環境中には、そこで働く人たちの健康に悪影響を及ぼすようなさまざまな有害要因が存在します。その有害要因を取り除き、適切な作業環境を整備することは非常に重要です。(一社)長野県労働基準協会連合会の環境測定部では、「快適な作業環境の追求」をモットーに、労働安全衛生法に基づく作業環境測定のほか、環境計量証明・分析などを行っています。今回は、(一社)長野県労働基準協会連合会 環境測定部 松本測定所の所長 奥野 諭氏と主任技師 瀧澤 修氏に、測定対象となる物質やその分析方法についてお話をうかがいました。
労働者の健康のため、作業環境中の有害物質を測定する
(一社)長野県労働基準協会連合会で主に作業環境測定を担当する環境測定部は、本部の長野市のほか、松本市、諏訪市、東御市の計4か所に事業所があります。特に、前処理や分析に関する業務は松本測定所に集約されています。また、松本測定所では、工場排水や河川水、下水道、土壌、産廃などの環境分析も行われています。奥野氏は「作業環境測定のお客様は、一般企業が多く、環境測定部では、工場などで働く人たちの健康管理や職場環境改善といった点をふまえた測定を行っています」と説明します。
(一社)長野県労働基準協会連合会
環境測定部 松本測定所
所長 奥野 諭氏
作業環境測定では、実際に工場などの作業現場へ出向き、作業場の空気をポンプで吸引し、ろ紙などへ試料を吸着させることで、そこに含まれる有害な金属の量などを測定します。また、工場排水などの水質調査においては、法律によって定められた項目に対して分析を行っていきます。現在、松本測定所で分析される作業環境測定の金属試料だけでも、年間約3000試料。多いときには1日で100試料以上受入れることもあるといいます。
(一社)長野県労働基準協会連合会
環境測定部 松本測定所
主任技師 瀧澤 修氏
「法律によって規制される物質が減ることはありませんので、金属関係の分析は今後も増えてくるものと考えています。たとえば近年では、コバルトやアンチモンが指定物質に追加されています。これらの物質のほとんどが半年に1回の定期測定が義務付けられています」(瀧澤氏)
分析業務が集約されたことで試料の種類と数が増加
分析に関する業務が松本測定所に集約されたのは約9年前のことでした。当時は原子吸光とICP発光で分析を行っていましたが、4か所の事業所から試料が集まるとなると、さまざまな種類の分析が求められるうえに、試料の数も増えることになります。当時の状況について瀧澤氏は次のように振り返ります。
「原子吸光は単元素ずつしか測定できませんし、当時利用していたICP発光の装置はシーケンシャルタイプのもので、処理速度が遅かったため、分析の結果が出るまでにかなりの時間が必要でした。工場排水調査で定められた全項目を分析するのに、1週間程度かかっているような状態です。またICP発光の装置は、汚れがつきやすく、1回の分析ごとにパーツを分解洗浄する必要があるなど、メンテナンスも大変でした」(瀧澤氏)
そこで、約7年前にアジレントのAgilent 7700 ICP-MSが導入されることとなります。これにより分析の精度と効率が上がり、1週間ほどかかっていた工場排水の全項目測定が2日程度にまで短縮できたといいます。
Agilent 7700 ICP-MS
Agilent 5110 ICP-OES導入の決め手は圧倒的な分析スピードと精度
しかし、松本測定所はここで新たな問題に直面することになります。作業環境測定における金属の試料が増えたことに伴い、夜遅くまで残って作業をしなければならない日もあったほど、分析にかかる作業時間が膨大になってしまったのです。こうしたなか、2年ほど前にICP発光装置の更新が検討されることになりました。そこで採用されたのが、アジレントの5110 ICP-OESでした。
Agilent 5110 ICP-OES
瀧澤氏は同装置の採用の決め手について「担当の方の前処理や分析に関する知識が豊富だったこと、装置の精度や分析スピードが圧倒的だったことから、アジレントの製品を採用することにしました。分析スピードが速く、高マトリクス試料を分析してもプラズマが消えず、濃度の変化に追随していました。再現性や耐久性も問題ありませんでした。日々のメンテナンスの容易さも納得いくもので、個人的には装置を見させてもらったその日に5110 ICP-OESに決めようと思いました」と話します。導入後は、その使い勝手の良さから金属の分析は5110 ICP-OESで行うことが多くなったそうです。
ただし5110 ICP-OESのみでは、作業時間の短縮に限界がありました。そこで、松本測定所では、新たに多数の試料を一度に処理できる前処理装置の導入、さらに5110 ICP-OESのオプションであるアドバンストバルブシステム(AVS)を採用。前処理と分析にかかる時間の大幅な削減を図りました。短時間に前処理された分析試料は、1日に200を超える場合もあるそうですが、データ処理までの作業が所定勤務時間内に収まるようになったといいます。
アドバンストバルブシステム(AVS)
「作業環境測定における金属分析試料が増えたため、AVSを採用することにしました。これにより、残業時間を大幅に減らすことができたんです」(瀧澤氏)
より良い作業環境を追求することにより長野県で働く人に貢献したい
瀧澤氏は、アジレントのソフトウェアについて「他の一般的な製品には付いていないような便利な機能が搭載されているなど、ユーザーの"痒いところに手が届く"ような操作性です」と評価します。また、「問題があった際の対応や、基礎、応用、前処理などのトレーニングの実施など、装置のみにとどまらないサービスもアジレントの特徴です」と述べ、奥野氏からも「どこのメーカーも装置自体は良いものを提供していただけますが、どうやったらより良く使えるかというところまでをサポートしているメーカーは多くありません。その点、アジレントは非常に頼りになるメーカーですね」とコメントしました。
松本測定所では、作業環境測定、環境分析を通じてより良い環境を追及し、長野県で働く人に貢献すべく、今日もさまざまな試料の分析を行っています。 |